JCDデザインアワード2016審査員選評
金賞受賞作品
[まるほん旅館風呂小屋]
/久保都島建築設計事務所
久保秀明と都島有美は2013年のJCDデザインアワードで銀賞と新人賞を受賞した若い世代の建築家だ。そのときの受賞作、レストラン「CONCERTO」と今回の金賞となった「まるほん旅館風呂小屋」には共通する特徴がある。それは<空間の区分けによって二つの場を作り、二つの間に特別な関係性を呼び寄せる>というものだ。
レストラン「CONCERTO」は、構造壁が内部空間を二分する。久保・都島は所与の構造壁の単純な形式操作=空間の区分けに注力する。構造壁の開口部が窓に見立てられ、その窓を介して「賑やかな日中のリビング」と「夜のテラス」の客席が互いに見える風景となる。空間の区分けが両義的で曖昧な関係性を呼び寄せる。そんな空間把握は、今回金賞となった「まるほん旅館風呂小屋」にも共通している。施設は湯浴みするための一階と風呂上がりに一息つく休息場の二階との、上下に分断される木造の小屋なのだが、その区分けの様子に特別な、そしてここでも両義的な「生成」が仕組まれる。風呂小屋は大きな一枚の曲面によってダイナミックに断ち切られる。この曲面は、下の空間では、曲面に沿って光と空気がまとわりつく静謐で官能的な湯浴みの場を作り出し、上の空間では、湯上がりの火照った体をサポートする巨大な安楽椅子に変貌する。強固に分断されているのに、曲面に寄り添う湯浴みの身体感覚によって、この風呂小屋のインテリアはひとつのものになる。ここでもやはり、空間に両義的で曖昧な関係性を呼び寄せる。
JCDデザインアワードに応募する建築家のデザインは、インテリアの仕事であっても、あるいは表層の素材や色が主題のデザインであっても、空間の骨格や形式を操作するタイプが多い。久保・都島もそうだ。二つの受賞作に共通するのは、単純で即物的な形式操作にどのような情報を発生させるのかという試みに見える。それは形式の自覚と生成への欲動といってもいいのかもしれない。海外であまり見る事のない、日本のJCDデザインアワードに散見できる興味深い傾向だ。
飯島直樹
年鑑日本の空間デザイン2017 / 六耀社